ここ2・3年の内田樹氏のマスコミ経由での発言は個人的には好感を持っていなかった。「2・3年」と書いたが、正確には「神戸女学院大学教授を退職されてから以降の」であろうか。なんと言うか、「相手をバッサリと切る」感じがして嫌だったのである。
そんな訳で著書にも手が伸びていなかったのだが、つい数日前『日本辺境論』を購入して読んでみた。なぜ選んだのかはすぐには思い出せないのでひとまず置いておく。『日本辺境論』を読んでいて、内田樹氏の「何かが変わったのか」がおぼろげながら見えた気がした。
今回はこの話ではなく、その次に読んだ『街場の天皇論』についてである。「ぼくはなぜ天皇主義者になったのか」という文は、読む前の時点の私には違和感があった。正直、「左派言論人」と決めつけていたからだと思う。そりゃまあ、「左派言論人」と見ている人が「天皇主義者」と言われてもこちらとしては困るわな。
「読んでみなきゃはじまらない」と思い、kindle版を購入して読みはじめた。ちなみに、購入したのは文庫版ではない方である。文庫版があることを知らなかったんだもんね。
そんなわけで読み始めたのだが、第1章の1番初めを読んで「あ、同じことを思ったのか」となった。以下にその部分を引用する。
そこで言われた象徴的行為とは実質的には「鎮魂」と「慰藉」のことです。
現在の上皇陛下の2016年8月8日の「おことば」を受けての文である。私は無学ゆえ、「おことば」から感じられたモノを言語化できないでいた。ただ、ざっくりと「慰霊」と「被災地訪問」を重視しているのかなと思っていた。上記引用の中の「鎮魂」と「慰藉」で「コトバ」として受け止められたのである。
さて、正直言えばここを読んだだけで個人的には収穫なのであるが、まああとは「内田さんの考えを読んでみようか」くらいの気持ちで読み進めた。読み終えた感想としては、「内容に同意するしないの前に、自分の中で『天皇制』とは何かを整理しないとあかんなあ」と思った。まあ、作者の思う壺かもしれないが。
本書は「読者に正解を提示する」ものではなく、「読者に考えるきっかけを持ってもらう」ものであると受け止めた。なので、内容の是非について読み手として論ずるつもりはない。考える題材としていくつかの「キーワード」を読んだ人が拾えばいいと思っている。
というわけで、何か「キーワード」を拾おうかと思ったが色々散りばめられているのでこのブログで何を書くのか迷った。書くとしたら「直線の道」かなあ。引用するとこうである。
しかし、古代に造営された七道は現在の高速道路と同じく、地形とも地域住民の生活ともかかわりなく、ただ都から地方の要衝までをまっすぐ定規で線を引いて作られたのである。
内田氏は、この後で「直線の道」の意味づけとして「効率的」とは別の側面があるのではないかと述べている。それについては読んでほしい。あと「水」も絡んでくるのだが、読了して「直線の道」と「水」についてぼんやり考えていて頭に浮かんだのは「リニア新幹線」である。「静岡県と水がらみでトラブっているよなあ」とぼんやりと。まあ、ぼんやりなので結びつけるのはこじつけの可能性が大きいのでこれ以上は書かない。事実に基づいた考えではないので。
面白かったので個人的にはOKである。本書で引用されている書籍はいっぱいあるが、ひとまず現天皇陛下が皇太子時代に書かれた本を注文してみた。
The Thames and I: A Memoir of Two Years at Oxford
- 作者:Naruhito
- 発売日: 2019/02/28
- メディア: ペーパーバック
なお、英語版ペーパーバックを選んだのは日本語版が到底買える価格ではなかったためである。英語嫌いだけど、届いたら辞書を引きつつ読む予定。あと、こちらも買ってみた。
- 作者:徳仁親王
- 発売日: 2019/04/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
こちらは本書では紹介されていないが、天皇陛下の皇太子時代の講演がまとめられているようなのであわせて。
あ、一応補足。私は2021年時点で「中年」と呼ばれる歳である。バブルの時はまだ金儲けできる年齢ではなく、平成世代でもないある意味「宙ぶらりん」な世代と言っておく。